高齢者介護のあれこれ

介護相談員の在宅介護ガイド

高齢者がご飯を食べ(られ)ない10の理由と頼れる専門家を紹介!

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1.軽視されがちな要介護高齢者の『食べる』

世界に類のないほど激しく進む日本の高齢化。2007年には65歳以上の高齢者が人口の21%を突破し、『超高齢社会』に突入しました。その後も日本の超高齢化社会は継続的に進み、高齢人口が増えたことから、高齢者の医療、介護、生活面の様々な社会問題が浮き彫りになってきました。年間50兆円にも肉迫する医療と介護の歳出問題や、600万人に上る要介護者、家事代行サービスなどの高齢者のための新サービスも連日話題になっています。

 

いつも話題になるテーマは『足りない医療と介護の財源と財政破たんの危機』、『医療と介護の供給不足』などで、高齢者と家族の細やかな生活支援とストレスケア(お気持ちケア)は手が回っていません。日本では目の前に降りかかった火の粉を振り払うように、緊急性の高い基本的な医療と介護の対応に追われている状況なのです。高齢者介護は多額の予算と多くの専門家の手が必要であるだけに、目の前の問題を捌くことに精いっぱいなことも理解はできます。しかし、緊急性の高い医療と介護に隠れた『高齢者が自分らしく生活を楽しむための思いやりとケア』への関心と取り組みが今後は益々大事になってくることでしょう。

 

その中でも特に注目すべきなのが高齢者の『食』なのです。食べることは要介護状態の高齢者にとっても単なる延命のための栄養摂取ではありません。体が不自由でも認知機能が低下していても『食べる』ことは楽しむべきことであって、生きる力と喜びを育むものであります。しかしながら、誤嚥性(ごえんせい)肺炎や嚥下(嚥下:飲み込む)や咀嚼(そしゃく:噛み潰す)機能の低下、ガンなどの病気による吐き気や味覚障害のような体調の変化があったときに、高齢者が再び口から食べられるように工夫し努力するよりも口から食べることを諦めさせることのほうが絶対的に多いのが日本の実情です。

 

口から食べられなくなった人は、中心静脈栄養(IVH)と呼ばれる栄養液を点滴のように打ったり、胃に穴をあけて直接栄養剤を入れる胃瘻(いろう)を造設したりします。長い期間口から食べられなくなると多くの高齢者は急激に気力を失い体調も悪化していきます。口から食べるための高齢者の身体機能が弱ってしまっても、再び口から食を楽しめられるようにリハビリを重ねたほうが栄養状態と身体機能の回復が著しく良かったとの専門家の報告書も多いです。医学的なリスクがあるとしても、高齢者の口から食べることを止めさせることは慎重に判断する必要があります

 

2.高齢者は様々な理由で口から食べられなくなる

 

健常な人には意識もせず当然のようにできる『食べる』行為ですが、高齢者は下記のような様々な理由で食べることができなくなります。

 

  • 嚥下(えんげ)咀嚼(そしゃく)機能の低下

:飲み込む筋力や、歯に問題があって上手く飲み込んだり噛み潰したりできない為に食べることが苦痛になってしまう

 

  • 肺炎などによる口から食べる食事の中止

:誤嚥性肺炎の避けるために口から食べることを止めさせられることがある

 

  • 終末期に入ったことによる激しい食欲の減退

:終末期に入ったことによって自然な生理現象として食欲が減退する

 

  • 味覚の変化と障害による食欲の減退

:加齢に伴う味覚の変化や薬の副作用による味覚の変化があって今まで楽しんできた食べ物が美味しく感じられずに食欲を落としてしまう

 

  • 厳しい食事制限のために食べることを諦めてしまう

:高血圧や糖尿病などの生活習慣病のために主治医から厳しい食事制限を言い渡され、食べる量を極限までに減らしてしまう

 

  • ガンなどの病気による吐き気など

:ガンなどの病気のために食事を前に激しい吐き気がすることがある

 

  • 重度の認知症によって食べることを忘れてしまう

:重度の認知症患者は「食べる」こと自体を忘れてしまい、食事を前に混乱して食べられないことがある

 

  • 入れ歯が合わずに食べづらくなっている

:入れ歯が合わないために食事のときに違和感がしたり上手く食べられないことがある

 

  • 口の中が乾きすぎて食べ物が喉を通らない

:高齢者の場合は口腔内の乾燥が激しいこともあって、口とのどが渇くことで食べ物が食道を通るときに痛みを引き起こすことがあり食欲を落とす原因になる

 

  • 保護者からのプレッシャーによる食欲の減退

:食が細くなった高齢者を想って食事を過度に勧めてしまうことでかえって高齢者が食事をとりたくなくなることがある

 

3.高齢者の『食』を支援するプロフェッショナルがいる

 

2で上述しましたように、高齢者は様々な原因で食が細くなり、十分な栄養を摂ることができなくなることがあります。その原因は医師だけでは解消できないことが多く、歯科医師や管理栄養士、薬剤師、介護福祉士、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、介護用品専門相談員に至るまで様々な専門家の協力が必要な場合が多いです。それでは、高齢者の『食』をサポートする専門家について一部紹介します。

 

  • 歯科医師(在宅訪問歯科医)

:歯科医師は口の中(口腔内)の環境を健全に保つための総合的なケアを行う医療専門職として、口から食べるための様々なサポートを行います。すべての歯科医師ではありませんが、歯科医師は高齢者の嚥下機能(えんげきのう:飲み込む能力)や咀嚼機能(噛み潰す能力)を正しく判定して、患者さんが食べやすい食べ物を勧めてくれることもあります。また食べ物を飲み込む筋肉が弱ったり固まったりするときや唾液が十分に潤っていないときは口腔リハビリを行うこともあります。さらに口から食べるための入れ歯の細かな調整を行う歯科医師もいます

 

  • 管理栄養士(在宅訪問管理栄養士)

:管理栄養士は主に病院で患者さんの栄養管理をしていますが、在宅介護中の高齢者の家まで伺って食事の相談に乗ることもあります。高齢者の好き嫌いや生活環境、生活習慣病による食事制限や摂取カロリーと水分量の管理まで、楽しく美味しく元気な食事のための総合的なアドバイスも行います。ときには自宅で簡単に作られる介護食を一緒に作ってくれたり、市販の惣菜を手軽に介護食にするアレンジ方法を教えてくれたりなど、炊事の手間を減らすコツも共有してくれます。管理栄養士の在宅訪問には医療保険や介護保険を利用することができますが、主治医の指示書が必要なために簡単にお願いできないことも多いです。

 

  • 薬剤師(在宅訪問薬剤師)

:薬剤師の仕事は薬の管理と服薬の指導ですが、薬のために起こる食事の悩みに応じてくれる専門家でもあります。高齢者の多くが日常的に複数の薬を飲んでいます。そのために高齢者は他に言わない薬の悩みを抱えるケースも少なくありません。薬の影響で感じる味が変わってしまって食べることが嫌になったり、食欲が失せてしまうこともあります。薬剤師は高齢者の服薬状況を確認して、同じ薬効が期待できる別の薬を処方してもらえるように主治医の先生に相談してくれることもあります。

 

  • 理学療法士、言語聴覚士、作業療法士

:これらの専門家は身体に障害のある高齢者に治療体操や運動、マッサージ、温熱療法を行ったり、手芸、工作、その他の作業を行わせたり、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導を行います。要するに、身体全体の機能を維持改善させるための専門家なのです。この専門家たちは普段からのケアはもちろん、口から食べづらくなったり食べられなくなったりした高齢者にリハビリなどの身体機能回復のための手伝いを行います。高齢になると食べるための筋力も衰えますが、このような機能を維持改善させることで再び食を楽しむことができて元気になった高齢者は非常に多いです。

 

  • 介護用品専門相談員

:介護用品専門相談員は高齢者の生活に合った介護用品の提案と使用までの手配をしてくれる専門家です。しかし単に介護用品の紹介をしている人ではなく、生活の様々な場面で高齢者が自分らしく自立した生活のためのサポートを行っています。すべての介護用品専門相談員ではありませんが、高齢者の食べる姿勢を正したり食べる負担を軽減したりする為の介護用品の上手な使い方を提案してくれることもあります。口から食べられなくなって病院から胃瘻(いろう)を勧められていた高齢患者が介護用品の上手な利用で食事ができるようになって元気になったケースも少なくありません

 

このように、みなさんの住む地域には介護と医療の専門家、高齢者の『食べる』を支える専門家がたくさんいます。高齢者の健全な食生活は高齢者本人の生活の質のみならず家族の負担も軽減され、ホッと一息のつけられるゆとりが生まれます。ケアマネジャーや地域の介護相談センターなどで相談して、上手に専門家の手を借りましょう。